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テスターの簡易校正

手持ちのテスターを校正してみた

tags: instrument

テスターの簡易校正のカバー画像

テスターの精度が気になる

PC20TKのPC Linkを使う で述べたように、sanwaのPC20TKというテスターを使っています。

最近、菊水の安定化電源を中古で買ったところ1、電源側に表示されている電圧とテスターで計測した電圧が50mV異なっていました。 多少の誤差があるのは仕方ないでしょう。 ただ、これが中古の安定化電源のせいなのか、PC20TKの精度によるものなのかは気になります。

PC20TKは実習として自分で組み立てるタイプのテスターです。 校正についても自分で調整用の半固定抵抗をいじる必要があり、組み立て当時は学校にあった高性能テスター……というより、ベンチトップDMM (Digital Multi Meter) の測定値を信じて調整を行っていました。 しかし、当時じっくり調整できた覚えはなく、また経年もあるので手持ちのPC20TKで計測した値の精度はどのぐらい信頼できるか気になっています。 再び校正したい。

校正の方法を考える

校正にあたっては「高精度DMMの測定値を基準とする」または「基準電圧源を用意する」のどちらかで行います。

まずは高精度DMMを基準とする案。 手持ちには無いのでどこからか借りて使うか、購入するしかありません。

借りる場合、計測器レンタルの会社もあるようですが個人相手の取引は行っていないようなので不可。 ファブラボのようなところでは高精度DMMを置いている(と明記されている)ところは見つけられませんでした。 地域の産業技術センターなら使わせてくれる場合もあるようですが、敷居は高くこのためだけに利用するのはちょっと……。

それであればと購入を考え、最初はHP(/Agilent/Keysight) 34401Aの中古を狙っていました。 しかし、(動作未確認ではなく明確な)ジャンク品ですら1万円ほど、いま動作するけど校正状況は不明という品が2~3万円ほどします。 34401Aは回路図も公開されており、ブログやYouTubeで修理方法を解説している方もいるので、ジャンク品を買って直すというのもアリとは思いつつ……1台目として持つならちゃんと校正された品のほうが良いのでは?でもその場合は6万円。 34401Aはすでに製造も終了しているので、いっそのこと後継機種のKeysight 34461Aにしたら?というのは新品で27万円ほど! 競合っぽいKeithley DMM6500もそりゃ競合なので同じくらいの価格2……。

これは無理です。 高精度DMMを持つのはロマンはありますが……この価格に見合う活用ができる気はしません。 猫に小判、豚に真珠、lrksに高精度DMM。 電圧は3.3Vと5Vの区別が付けばOKです。 1uA~1Aをオートレンジで電源断なしに測定したい……けどそれはPPK2を買ったほうが良い。 抵抗の4端子測定は別途安定化電源と組み合わせて頑張ります。 ロギングはPC20TKでも(サンプルレートは低いものの)一応できる。 リモート操作は見なかったことにします。

ということで高精度DMMは諦めて、基準電圧源を用意して校正する案を考えます。

とはいえ、「標準電圧電流発生器」などは高価なので使い(使え)ません。 せいぜい電圧リファレンスICやそういったICが組み込まれたモジュールを使う程度です。 PC20TKは3.5桁のテスターなので、ほどほどでいきましょう。

電圧リファレンスとして定番または入手しやすいICについて、データシートも見ながらまとめてみるとこうなります。

LTZ1000LM399AD584(Kグレード)MCP1501-20E
出力電圧7.2V6.95V2.5V, 5V, 7.5V, 10V2.048V
初期精度記載なし (4%ほど?)2%0.14%0.08%
温度係数0.05 ppm/℃0.5 ppm/℃15 ppm/℃50 ppm/℃
長期安定性SA+AB
IC単体価格1万円ほど2000円ほど6000円ほど120円

LTZ1000とLM399については初期精度は期待できず、出力電圧は計測器を用いて記録しておくことが必要です。 その代わり、そこで測定した値は温度3や時間が変化しても安定していることが期待できるとされています。 AliExpressでは、LM399を組み込んだモジュールとその出力電圧を実測したラベルのセットが5000円ほどで販売されており、それをリファレンスにして校正に使えそうです。

それらと比べ、AD584は温度や時間の変化により出力電圧が変動してしまいます。 特に時間よりも温度による変動が大きいですが、出力電圧を温度データとともに測定して記録すればそこそこ使えそうです。 ちなみに、こうした特性があるのでLM399よりも安価なはず……ですが、タイミングが悪かったのかLM399よりも高く逆転してしまいました。 AliExpressでは、LM399と同様にAD584を組み込んで実測値を書いたモジュールがあり、価格は2500円ほどとLM399版よりも安価です。

MCP1501-20Eは秋月で売られている中で初期精度が高そうなものを選んでみました。 温度係数や長期安定性はあまり期待できないですが、120円なら良いのでは……? 実は後述の校正ではAD584を組み込んだモジュールを使っているのですが、MCP1501-20Eでも簡易校正にはなったかな……という感じです。

AD584モジュールの比較

前述の表からAD584がそこそこの性能でそこそこの価格で良さそうです。 AliExpressで販売されている、AD584を組み込んで実測値が書かれたモジュールを用いて校正してみたくなってきました。 そのモジュールもいくつか種類があるので、比較してみます。

その1(アクリル)

まずはアクリルケース付きのモジュールから。 価格は3000円ほどで、電源はリチウムイオンバッテリー(またはDCジャックからの供給で動くかも知れませんが未確認)。 バッテリーは付属していたり、していなかったりする。 外観はこうで、側面や裏面に実測値が記入されている模様。

その1(アクリル)の商品画像 その1(アクリル)の商品画像(AliExpressより)

下記のレビューを見ると好意的。

その2(穴開き)

次は電池マウント用に穴の空いたモジュール。 価格は1500円ほど。 電源は4.5V~30Vとなっているが、昇圧回路などは組まれていない。 AD584の仕様上、たとえば10V出力させたい場合は最低でも12Vを入力することになると思われる。 外観はこんな感じ、実測値のメモも付属する。

その2(穴開き)の商品画像 その2(穴開き)の商品画像(AliExpressより)

ただし、下記のレビューによると実測値のメモは信用できないとされている。

その3(ML005)

さらに四角い緑色の基板に「ML005」と書かれたモジュール。 価格は1500円ほど。 こちらも昇圧回路などはなく、それどころかDCジャックすら無いなどシンプルな構成。 外観はこう。

その3(ML005)の商品画像 その3(ML005)の商品画像(AliExpressより)

下記レビューによれば、価格の割には良いという評価の模様。 ただし、現在は他のモジュールと比べて安価かというと微妙……。

その4(xtoqm)

次は”xtoqm.taobao.com”と書かれたモジュール。 価格は1500円ほど。 昇圧回路なども無いが、テスターの校正用に高精度抵抗も一緒に載っているのが特徴。 外観はこう。

その4(xtoqm)の商品画像 その4(xtoqm)の商品画像(AliExpressより)

下記レビューは別に否定的ではないが、AD584のグレードがJ(Kグレードよりも温度係数が悪い)のものしかない?ことが懸念。

その5(黄ラベル)

そして黄ラベルで実測値のメモが書かれたモジュール。 価格は2500円ほど。 昇圧回路あり、USB電源で駆動できる。 ほぼ「その1(アクリル)」のアクリル抜きと思っている(思っているだけで本当にそうかは微妙)。 外観はこう。

その5(黄ラベル)の商品画像 その5(黄ラベル)の商品画像(AliExpressより)

下記レビューも悪くはない。どのモジュールも温湿度の値がほとんど同じなのが気になるものの……。

その6(端子台)

さらに端子台を備えたモジュール。 価格は1500円ほど。 その2(穴開き)やその4(xtoqm)と似た系譜を感じるが、Lグレード(Kグレードよりも温度係数が良い。ただし現在は製造していない?)も選べるらしい。 外観はこれで、レビューは未調査。

その6(端子台)の商品画像 その6(端子台)の商品画像(AliExpressより)

その7(スリット)

次に基板にスリットが入っているモジュール。 価格は2500円ほど。 あまり出回っていませんが、Lグレードを使っているらしい。 スリットの目的は……熱の影響を抑える? そのほか載っている部品の意味もよく分かりません。フィルタ? 外観はこれで、レビューは未調査。

その7(スリット)の商品画像 その7(スリット)の商品画像(AliExpressより)

その8(シールド)

最後にシールドつきのモジュール。 価格は3000円ほど。 外観はこれで、レビューは未調査。

その8(シールド)の商品画像 その8(シールド)の商品画像(AliExpressより)

おまけ: LM399(シールド)

(AD584はおしまいですが)おまけにLM399版も一応調べていたので載せます。 よく販売されているのはLM399部分を金属シールドで覆ったモジュール。 価格は5000円ほど。 外観はこう。

LM399(シールド)の商品画像 LM399(シールド)の商品画像(AliExpressより)

下記レビューによれば一応良い?模様。

校正

いろいろ悩んだ結果、「その5(黄ラベル)」のモジュールを購入し校正することにしました。 届いたモジュールの外観はこちら。

校正に利用するAD584モジュール 校正に利用するAD584モジュール

ラベルが二重に貼られていますが、内容は同じでした。 AD584のマーキングによれば1990年16週製造……1990年!?!? ちょっと古すぎるんじゃないですかね……まぁ偽物よりはマシ? いや、これが本物という確証もないですが……。

若干不安ですが、このまま校正に使ってみます。

まず実施環境の温湿度をできるだけ気温25℃/RH49%に近づけました。 このときの環境を3つの温湿度計で計測した結果はこちら。

  • 温湿度計1(Netatmo屋内モジュール): 気温24.5℃/RH61%
  • 温湿度計2(セイコーの温湿度計つき時計): 気温25.1℃/RH57%
  • 温湿度計3(CITIZEN THD501屋内親機): 気温25.2℃/RH47%

そして、AD584モジュールとPC20TKをともに30分ほど電源を入れたままにしてウォームアップさせたのち、校正した結果が下記のとおりです。

AD584 ラベルPC20TK 校正前PC20TK 校正後
2.5V2.498042.4812.504
5V5.000654.955.00
7.5V7.497507.437.50
10V9.999819.9110.00

2.5Vがちょっとおかしいような……。 2.5Vに合わせようとすると、他の値と整合性が取れなくなります。 まぁこの校正によって以前よりは正確な測定ができるようになったでしょう。

おわりに

AliExpressで売られているAD584モジュールを用いてテスターの校正をしてみました。 本格的な校正かというと微妙ですが、まぁほどほどの校正にはなったんじゃないでしょうか。

この校正後、冒頭で述べた安定化電源の表示電圧とテスターで計測した電圧も揃ったのでよかったです。おわり。

Footnotes

  1. メンテしてそのうち記事にします。乞うご期待、チャンネル登録もよろしくお願いします!

  2. 一昔前はKeysight 34461AもKeithley DMM6500も15万円ほどで買えたようですが……。

  3. ヒーターが内蔵されており、内部は一定の温度が保たれるようになっています。